「カツ」の語源が割と沼だった

※この記事は かつ丼とカレンダー Advent Calendar 2019 に寄せたものです。

こんばんは、兎月くみです。

今年もアドベントカレンダーの季節になってしまったかと思うと、一年の過ぎる早さに驚くばかりで、それすなわち「自分が歳をとる早さ」であることに気がついて戦々恐々としてしまいます…。

さてさて、何はともあれカツ丼ですね。

今回のアドカレは mastodon のフォロワーさん、かつ丼氏の企画ということで、カツ丼の「カツ」の語源について調べてみました。

するとどうやら、判ったような判らないような…なんというか「言語沼」にハマる類でした。

※私が1時間くらいネットで雑に調べた内容です。一次資料にあたったりなど全くしていないのでご留意のほど。

日本語「カツ」の由来

カツ丼の「カツ」が、「トンカツ」の「カツ」であることは、たぶん疑いない1と思います。

その「カツ」が「カツレツ」に由来することも、割と共通認識2でしょう。「カツレツ」は英語の cutlet の音写というところも、納得できますね。

ちなみに英語の cutlet には、日本の「カツ」のような「揚げたスライス肉」の意味と共に、「リブ(肋骨)部位のチョップ肉」という意味があるようです。
※ここが伏線になります(?)

英語 “cutlet” の由来

では、英語の cutlet がどこから来たのかというと、ここからは言語ファンがみんな大好きな Wiktionary 英語版の出番です。Wikiの信憑性については置いておきます。少なくとも出典はちょくちょく書いてありますしね。

さて、記事によるとフランス語の côtelette(コトレット)に由来するとのことです。英語は歴史的にフランス語からかなりの数の語を借用していますし、食べ物関係にフランス語が多いことからも納得できます。

この côtelette は、中世フランス語で costelette という形3でした。これは coste と -elette(指小辞4)から成っています。つまり「ちっこい coste」「coste 的なアレ」みたいな意味です。

では、その “coste” って何?

この coste は、ラテン語の costa(コスタ)に由来します。この語は、現代フランス語の côte や、英語の coast の語源であり、普通は「海岸」の意味で使われています5よね。なぜそんな単語が「カツレツ」になったのでしょう?

実は、costa 元来の意味は「横、壁」そして「リブ(肋骨) 」です 6 。これはあくまで想像ですが、陸地のサイド部分が「海岸」で、身体のサイド部分が「リブ」であるという連想が働いたものなのでしょう。

日本語における「岬」や「崎」の「さき」と「手羽先」の「さき」が同じ語源であることに似ているでしょうか?

「海岸」と「カツレツ」につながりがあるなんて、めっちゃ面白くないですか???

あ、そうでもないですか。すみません。

結局どこまで遡るの?

※この節は興味のある人だけ読んでください。
※ない人は次の「まとめ」へ。

ラテン語の costa は、インド・ヨーロッパ祖語に由来するらしいのですが、実はここがよく解っていない泥沼っぽいのです。

広く支持されている説は、他の印欧諸語でも「骨」を意味する *h₃ésth₁ (オ゙ェストァ7)という再建形と関係があるというものです。これは古代ギリシア語の ὀστέον8(オステオン)や、サンスクリット語の अस्थि(アースティ)などに派生しているほか、なんとラテン語にも ōs(普通の「骨」の意)として別に受け継がれているのです。

あれ…?つまり「横」ではなくて「骨」がむしろ本来の意味だったってこと???

いずれにせよ costa の語頭の /k/ 音が、一体全体どこからやってきたのかが判らないのです。実はロシア語などのスラヴ諸語においても語頭に謎の /k/ が現れており9、この現象については様々な説があるようです。ロシア語で書かれた論文10を見つけたので読んでみましたが、結局「語源学者泣かせ」などと締めくくられる始末でした。

はい、もぅマヂ無理。そっ閉じしょ。

まとめ

皆様もカツ丼を食べる時は、太古のインド・ヨーロッパ民族が、家畜の脇腹から肉をこそぎ落としているところでも想像してみてください。

おしまい。

では、おやすみなさい。

  1. むしろそこからして異論があったらごめんなさい…。
  2. カツ – 語源由来辞典
  3. 現代仏語の ô や ê は、元々 os, es だった傾向が強い。hôpital = hospital や forêt = forest など。
  4. 「小さい〇〇」という意味や、連想する言葉に派生させる機能を持つ。
  5. Côte d’Ivoire(コートジボワール= Ivory Coast =象牙海岸)など。
  6. Wiktionary を見る限り、この「リブ」の意味が、中世フランス語では一旦無くなっている。謎。
  7. 色々と説はあるが、大体 /ɣʷɛstə/ みたいな音。
  8. 医学分野や古生物の名前などで時々目にする。「”オステオ”パシー」とか「ダンクル”オステウス” 」など。
  9. スラヴ祖語 *kostь、ロシア語 кость(コースチ)など。なおこちらには「横」の意味はない。
  10. Михаленко А. О. Интересная этимология “Кость” https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/44/%D0%9A%D0%BE%D1%81%D1%82%D1%8C.pdf

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