felesitas2周年企画に寄稿した翻訳の話

こんばんは、くみてんです。

先日、雨宮凪沙氏の mastodon サーバーである felesitas.cloud の2周年記念合同誌「ひと・もの・かたち(仮)」が公開されました。企画には3人のユーザーが寄稿し、それぞれについて氏が気合の入った講評を載せています。

felesitas(ふぇれ荘)も今月末で2年半となりますね。

さて、その合同誌に私が寄稿したのは、ルイス・キャロルの名作『ふしぎの国のアリス』の翻訳です。今回はその裏話を聞きたいという声にお応えして、面白かった点や苦労した点について紹介したいとおもいます。

どんなもの?

これは『アリス』第1章 “Down the Rabbit Hole” の冒頭10段落を、私の創作言語「リアニース・ミン」(リアニーセン語、以下「りあみん」)へと訳したもので、重訳ではなく英語原文からの直訳です。

右側には日本語訳を載せていますが、これは英文ではなくりあみん文から訳したものになっています。ですので、かなり再現度が高く翻訳できていることが見て取れるかなと思います。

面白かった点

翻訳をしていてまず感じたのが、「あれ、意外とスイスイ訳せるじゃん」ということです。それもそのはず、りあみんは既にオンライン辞書掲載分だけでも1400語あまりの語彙数を有しています。これは語学好き御用達の『大学書林基礎単語帳シリーズ』に匹敵します。他言語を学ぶ上で「日常生活に必要な語彙数は2000語」などとよく言われますが、りあみんも辞書に載せていないような複合語をカウントすれば、恐らくそのくらいにはなるはずです。

また、これまでに「第九:歓喜の歌」「オー・シャンゼリゼ」「レット・イット・ゴー」など、色々な歌詞の翻訳にも挑戦してきたので、そのノウハウもありました。

もうひとつ感じたのは「りあみんの文法構造が自分で思っていたよりもしっかりしている」ということでした。原文には、シンプルな文だけでなく「分詞構文」や「関係節」のような、人によっては高校英語のトラウマを喚び起こしかねない構文がたくさん出てきます。そうしたものに対しても、りあみんは十分対応することができました。これはりあみんが数年間に渡って洗練されてきた1結果だと思います。

すこし思想的なフレーバーが加えられているのは、日本語訳におけるアリスの言葉遣いです。「〜だわ」「〜ですもの」といったコテコテの女性言葉に訳されがちな部分を少し中性的な雰囲気にした結果、ちょっとだけボーイッシュめ2なアリスになりました。

苦労した点

まず『アリス』の原文そのものが比較的読みづらいという点に苦労しました。私が普段読むような英文のニュースや、受験英語の長文などとは異なり、何を言わんとしているのかが初見では汲み取れないような文が時々ありました。私自身が小説を読み慣れていないというのは多分にありますが、この本が作者の読み聞かせを元にしているせいもあるのでしょう。

また、いくつかの語彙がこの翻訳のために必要となりました。特に「緯度経度」や「ウエストコート(ベスト)」のような、りあみんが想定していた世界では用いられないであろう概念をどう表現すべきか悩みました。結局、前者は「子午線・卯酉線3」というような語に、後者は「短服4」という表現に落ちつきました。

何よりも最後まで悩んだのが、アリスの「言い間違い」の部分です。原文では、

‘I wonder if I shall fall right through the earth! How funny it’ll seem to come out among the people that walk with their heads downward! The Antipathies, I think—’

Alice’s Adventures in Wonderland by Lewis Carroll http://www.gutenberg.org/ebooks/11

となっており、これは antipodes(地球の反対に足がある人々=オーストラリア・ニュージーランド人)と anitipathies(反感)をアリスが混同してしまったというシーンです。

当然りあみんでも似た語感を持つ単語同士を選ばねばならず、さらに日本語に訳出した際にも「言い間違い」であることが分かるようなものにしたかったので、かなり苦労しました。

結果として lavainus(逆さまの)と laveeniunis(鮭の)を用いた「サケさまの地面」という表現が生まれました。

今後について

せっかく第1章の10段落まで完成した(実は第1章の残りの部分も雑ではありますが形になっている)ので、いつかは全編をりあみん訳したいと考えています。

どうせなら本の形にして、コミティアや文フリなどに(どちらも行ったことすらないですが)出してみるのも楽しそうですね。

また、最近はハビト(鳥人)の用いるフラーリトゥイル(フラーリット語)や、中世りあみんの設定なども書き溜めています。これらを用いた創作も色々と展開させていきたい次第です。

ではでは、おやすみなさい。

  1. りあみんの原型自体は2012年〜2013年ごろから存在する。
  2. 最初は「〜だね」「〜だよ」といった口調だったが、流石に少年のようで違和感が大きかったのでやめた。
  3. 日本語の「卯酉線」と「緯線」は別の概念なので注意。
  4. コートやローブのような長い衣服に対する語として。訳出では単に「服」とした。

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